Matterゲートウェイのメインチップ選び:RK3506・RK3562・RK3576・RDK X5を比較
Bluetooth MeshからMatterへのゲートウェイに必要な性能は?RK3506、RK3562、RK3576、RDK X5の仕様、価格、SDK、用途を比較し、3グレードに分けた理由を解説します。
前回の記事で、ゲートウェイのBluetoothチップを決めました。Silicon LabsのモジュールでMeshスタックを動かし、UARTでホストからの指示を受ける構成です。今回はもう一つのチップ、つまり LinuxとゲートウェイのプログラムをOSごと動かすメインプロセッサの話です。
Bluetoothチップに比べると、メインプロセッサは選択肢がずっと多いです。Rockchipの RK3506、RK3562、RK3576に加えて、協力会社から勧められたD-Roboticsの RDK X5 も検討しました。結論は「どれか一つを選ぶ」ではなく、製品の位置づけに応じて三つのグレードに分けることでした。
まず整理する:ゲートウェイに必要な性能はどれくらいか
要件を並べてみると、「ハイスペック」の多くは実は不要だと分かります。
| 要件 | 求められること |
|---|---|
| ゲートウェイのプログラム | Rust製のシングルプログラムで、実行時のメモリ使用量は数十MB程度 |
| Matter | トラフィックはごくわずか。コミッショニング時の暗号処理はやや重いが、ゲートウェイを追加する一度きり |
| ネットワーク | 有線かWi-Fiのどちらかがあればよく、100Mbpsのポートで十分 |
| Bluetoothモジュール | UARTが1系統。RTS/CTSによるハードウェアフロー制御が必須(Silicon LabsのBGAPIにはチェックサムがないため) |
| システム | 最小構成のLinux、読み取り専用のルートファイルシステム、A/BパーティションでOTA |
| セキュリティ | Matterのデバイス証明書の秘密鍵を適切に保管する必要があり、セキュアブートとOTPがあるとなお良い |
つまり、「Bluetooth MeshからMatterへ」のブリッジをするだけなら、演算性能はほとんど要りません。本当に気にすべきなのは、UARTのフロー制御、セキュアブート、SDKの品質、長期供給、価格です。
RK3506:最安で、ブリッジ専用なら十分
RK3506はRockchipの比較的新しいエントリー向けチップです。
- Cortex-A7を3コア(1.2GHz、32ビット)に加え、Cortex-M0を1つ搭載。
- メモリはDDR3Lで、128MB〜512MBが一般的。
- イーサネットは100MbpsのRMIIで、PCIeはなし。Wi-FiはSDIOかUSB経由のみ。
- ピンの多重化が柔軟で、UARTの数にも余裕がある。
コアボードは安く、たとえばLuckfoxのLyraシリーズなら、メモリ512MB+eMMC 8GBのコアボードが100元ちょっと(約15米ドル)で売られています。
ゲートウェイ用途としては十分です。プログラムに必要なのは数十MBで、A7が3コアあればMatterとMeshの変換は余裕でこなせます。実際、ゲートウェイのプログラムをRK3506の32ビットARM向け(armv7-unknown-linux-musleabihf)にそのままビルドでき、コードを変えずにチェックも通ることを確認しています。
注意点は二つあります。
- **メモリは512MBを選ぶこと。**128MB版はかなり厳しく、デモ止まりです。
- **セキュアブート、OTP、OP-TEEのサポート状況を先に確認すること。**このチップは新しく、資料がまだ少ないのですが、Matter認証で秘密鍵をどう守るかに直結する部分です。
弱点もはっきりしています。32ビットでメモリが小さく、NPUもないため、あとからゲートウェイに機能を足す余地はほとんどありません。
RK3562:余裕を持たせた主力モデル
RK3562は私たちの「スタンダード版」です。
- Cortex-A53を4コア(2.0GHz、64ビット)。
- LPDDR4で1〜4GB。
- ギガビットイーサネット、PCIe、USB 3.0を備え、UARTは10系統ほど。
- 1 TOPSのNPUを搭載。
MYIR、Forlinx、Industioなど各社からコアボードが出ていて、公開価格はおおよそ150〜300元(20〜40米ドル)、開発ボードは500〜600元です。
選ぶ理由は余裕です。64ビット、ギガビットのポート、2GBのメモリがあれば、あとからローカルオートメーションやWeb管理画面を足したり、対応プロトコルを増やしたりする余地があります。RockchipのLinux SDKの対応も成熟していて、Buildrootなら一つのコマンドで完全なファームウェアが作れます。
もう一つ経験から言えるのは、開発ボードと量産用のコアボードは同じメーカーで揃えたほうがいいということです。開発時に使うBSPやデバイスツリーが量産時と一致するので、移植作業を一回分省けます。
RK3576:画面付きのコントローラーが必要なときだけ
RK3576は性能が一段上がります。8コア(4×A72 + 4×A53)、6 TOPSのNPU、より強力なディスプレイ・動画処理を備え、コアボードは500元前後から(約70米ドル)です。
単なるブリッジ用ゲートウェイには明らかにオーバースペックです。向いているのは別の種類の製品、つまり画面付きのスマートホーム用コントローラーです。たとえば壁に取り付ける7インチの画面で、機器の状態表示やシーン操作をしつつ、ゲートウェイも兼ねるような製品です。将来ローカル音声やAI機能を載せるなら、NPUも活きてきます。
RDK X5:動くけれど、ゲートウェイには向かない
協力会社から、D-RoboticsのRDK X5を見てみるよう勧められました。スペックは目を引きます。
- Cortex-A55を8コア(1.5GHz)。
- 10 TOPSのBPU(D-Roboticsが持つAIアクセラレータ)と、4Kのエンコード/デコード。
- モジュールにメモリとeMMCを統合。Wi-Fi 6とBluetooth 5.4付きも選べる。
- 開発ボードの4GB版は549元(約75米ドル)。
技術的にはゲートウェイとして問題なく動きます。64ビットARMのLinuxなので私たちのプログラムがそのまま動きますし、必要なインターフェースも揃っていて、セキュアファームウェア付きのBuildroot SDKも提供されています。
ただ、ゲートウェイという用途に当てはめると、問題がいくつもあります。
| 問題 | 内容 |
|---|---|
| 性能の無駄 | 売りは10 TOPSと画像処理で、ゲートウェイでは使い道がない |
| コスト | モジュールの価格は販路によって大きく違い、全体としてRK3562よりかなり高い |
| エコシステム | 推進しているのは一社のみ。コミュニティ、ソリューションベンダー、資料のどれもRockchipよりずっと少ない |
| システム | 主力はUbuntuのデスクトップイメージ。量産にはBuildroot SDKを使うことになり、その成熟度は見極めが必要 |
| 製品の成熟度 | 見つけたモジュールの資料には「製品はまだ開発段階」と書かれており、量産状況と長期供給は要確認 |
| Bluetoothの重複 | Wi-Fi付きモジュールにはBluetoothも付いてくるが、うちのBluetoothは別のMeshモジュールが担当するため、使わない無線が一つ余る |
ロボットやビジョンAIのプラットフォームとしては素晴らしいのですが、コストにシビアなゲートウェイの土台には向きません。
四つを並べて比較
| RK3506 | RK3562 | RK3576 | RDK X5 | |
|---|---|---|---|---|
| CPU | 3×A7、32ビット | 4×A53、64ビット | 4×A72 + 4×A53 | 8×A55 |
| AI演算性能 | なし | 1 TOPS | 6 TOPS | 10 TOPS |
| 一般的なメモリ | 128〜512MB | 1〜4GB | 4〜8GB | 2〜8GB |
| イーサネット | 100Mbps | ギガビット | ギガビット | ギガビット |
| コアボードの公開価格 | 約15米ドル | 約20〜40米ドル | 約70米ドルから | 販路による差が大きい |
| エコシステムとSDK | 新しく、資料が少ない | 成熟 | 成熟 | 一社のみ |
| 向いている用途 | ブリッジのみ、コスト最優先 | ブリッジ+拡張機能 | 画面付きコントローラー、AI | ロボット、ビジョンAI |
私たちの選択:三つのグレード
| バージョン | メインプロセッサ | 位置づけ |
|---|---|---|
| ローエンド版 | RK3506 | Bluetooth MeshからMatterへの変換のみ。コスト最優先 |
| スタンダード版 | RK3562 | 余裕を持たせ、ローカルオートメーション、Web管理、追加プロトコルに対応 |
| ハイエンド版 | RK3576 | 画面付きコントローラーで、ゲートウェイも兼ねる |
三つとも同じソフトウェア構成です。RockchipのSDKにBuildrootを組み合わせ、ゲートウェイのプログラムはビルドターゲットが違うだけで、Bluetoothモジュールとデバイスのファームウェアはまったく同じです。これが最初の記事で書いた、レイヤー分けした設計の利点です。メインプロセッサを入れ替えても、BluetoothとMatterの両レイヤーには手を入れずに済みます。
検証段階では、まずRK3562の開発ボードを買います。余裕が最も大きく、問題が起きたときの切り分けも一番楽だからです。問題がないことを確認できたら、同じプログラムをRK3506に移植してコストを下げます。
発注前に確認しておきたいこと
どのチップを選ぶにしても、開発ボードやコアボードを買う前に、メーカーへ次の点を聞いておくことをおすすめします。
- UARTでRTS/CTSのハードウェアフロー制御が使えるか、そのピンが引き出されているか。
- SDKはどのように提供されるか、Buildrootは含まれているか、カーネルのバージョンは何か。
- セキュアブート、OTP、OP-TEEのサポート状況とドキュメント。
- コアボードの量産価格と納期、製造終了の予定はないか。
- ボード搭載のWi-Fiはどのモジュールか、ドライバはすでに調整済みか。
おわりに
プロセッサ選びは、スペックに引っ張られがちです。コア数、演算性能、メモリと、見れば見るほど上のグレードが欲しくなります。でもゲートウェイの成否を分けるのは、地味なところです。UARTのフロー制御、セキュアブート、SDKの使いやすさ、そして長く買い続けられるかどうか。まず製品をどこまで作り込むのかを考えてから、必要な性能を決めましょう。
スマートホームのゲートウェイ向けにメインプロセッサを選んでいる方や、RockchipのSDKでBuildrootをカスタマイズしている方は、ぜひお気軽にどうぞ:linktr.ee/weiyii