Matterゲートウェイに必要な認証と費用:CSA、Bluetooth SIG、無線認証
CSAの会費と認証料、試験所テスト、デバイス証明書DAC、Bluetooth SIG認証、SRRC・CE・FCC。Bluetooth MeshからMatterへのゲートウェイの初年度費用と進める順番をまとめました。
ここまでの記事は技術の話が中心でした。全体アーキテクチャ、プロトコル、Bluetoothチップ、そしてメインSoCの選定です。ただ、ゲートウェイが製品として売れるかどうかを最後に決めるのは、技術よりも認証であることが少なくありません。
第2回では、Apple Homeにゲートウェイを追加するときに「認証されていないアクセサリ」という警告が出ていました。開発中は「このまま追加」を押せば済みますが、量産品ではそうはいきません。ユーザーはこの表示に不安を感じますし、販売チャネルからも受け入れてもらえません。
この記事では、Bluetooth MeshからMatterへのブリッジを行うゲートウェイが通すべき認証を整理します。どんな認証があって、それぞれ何を扱い、費用はどのくらいで、どの順番で進めるのか、という話です。
まず3種類の認証を区別する
ゲートウェイが向き合う認証は3種類に分けられます。それぞれ扱う対象がまったく違います。
| 種類 | 何を扱うか | 代表例 | 取らないとどうなるか |
|---|---|---|---|
| エコシステム認証 | Matterを名乗り、各プラットフォームに正しくつなげるか | Matter(CSA) | 「認証されていないアクセサリ」と表示され、Matterロゴも使えない |
| プロトコル認証 | 製品のBluetooth実装が規格に適合しているか | Bluetooth SIG | Bluetoothの商標が使えず、多くの販売チャネルに入れない |
| 無線認証 | 電波の発射が各地域の法規に適合しているか | SRRC、CE、FCC | 法律で義務。合法的に販売できない |
最初の2つは業界団体の要件で、最後の1つは法的な要件です。費用も時間も、おもにこの3か所にかかります。
Matter認証:必要なのはゲートウェイだけ
先にいい話をひとつ。ブリッジの先にあるスイッチやライトにMatter認証は要りません。
Matterのアーキテクチャでは、Apple Homeから見えるMatterデバイスはゲートウェイ1台だけです。その先のスイッチやライトは、ゲートウェイが「代理」で見せているブリッジデバイスにすぎません。そのため認証が必要なのはゲートウェイだけで、デバイス側にどんなチップを使い、どんなプロトコルで通信するかは、Matter認証とは関係がありません。第1回でゲートウェイ方式を選んだ大きな理由のひとつです。
Matter認証を担当するのはConnectivity Standards Alliance(CSA)で、流れはおおよそ次のとおりです。
- CSAに加入してメンバーになる
- ベンダーID(VID)を申請し、製品にプロダクトID(PID)を割り当てる
- 認定ラボでテストを受ける
- 合格したら認証費用を支払い、製品がCSAの認証データベースに登録される
- 量産時は1台ごとにデバイス証明書(DAC)を書き込む。証明書は認証局から購入する
CSAの会員資格と認証費用
以下はCSAの公式サイトで現在公開されている料金です(最新情報は公式サイトで確認してください)。
| 会員レベル | 年会費 | 製品ごとの認証費用 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Associate | 無料 | 自社でテストに出せない。認証の移転(certification transfer)のみで、製品ごとに2,500米ドル、さらに年500米ドル | 他社が取得済みの製品に相乗りできるだけ |
| Adopter | 7,500米ドル | 3,000米ドル(自社の派生製品は2,500米ドル) | 自社製品の認証を取れる最低レベル |
| Participant | 21,500米ドル | 2,000米ドル(派生製品は1,500米ドル) | 議決権あり。他社向けのOEMで認証を移転するにはこのレベルが必要 |
| Promoter | 10万米ドル以上 | 2,000米ドル | 大手企業向け |
ネット上の記事には、Adopterが7,000米ドル、Participantが20,000米ドルと書かれているものが多いですが、これは2023年ごろの古い価格です。
Matter製品づくりを始めたばかりの会社なら、Adopterがもっとも一般的な選択です。
ラボテスト
テストはCSA認定のラボに依頼します。中国国内のラボの見積もりは、**1製品あたりおよそ3万〜5万元(約4,000〜7,000米ドル)**で、製品の種類やテスト項目によって変わります。ブリッジは単体デバイスよりテスト項目が多めです。ブリッジ先のデバイスを動的に追加・削除する動作なども検証する必要があるためです。
デバイス証明書(DAC)
Matterデバイスをコミッショニングするとき、スマートフォンはデバイス証明書を検証して、正規のメーカーが作ったものかどうかを確認します。開発中に使っているのはMatter公式のテスト用証明書で、Apple Homeが「認証されていない」と警告してくるのはこのためです。
量産時には、CSAが認めた認証局から証明書を購入します。1台につき1枚で、数量に応じた価格になるため、個別に見積もりを取ることになります。エンジニアリング面で気をつけたい点が2つあります。
- 証明書の秘密鍵は厳重に保管してください。できればチップのセキュアストレージに置くのが望ましいです。メインSoCを選ぶときにセキュアブートとOTPのサポートを確認するのは、このためです。
- 生産ラインには、デバイスごとに固有の証明書とペアリングコードを書き込む工程が必要です。
Bluetooth SIG認証:Bluetoothを使うなら避けられない
製品にBluetoothを使っていれば、Meshかどうかに関係なく、販売にはBluetooth SIGの認証(Qualification)が必要です。第3回でも触れましたが、独自プロトコルに戻してもこの費用は省けません。
幸い、たいていは再テストが不要です。
- チップやモジュールのメーカーがすでに認証を取ったスタックをそのまま使い、認証済みの部分に手を入れなければ、SIGの認証システム上で相手の認証番号(QDID)を参照し、宣言書を提出して費用を払うだけで済みます。
- 宣言費用は設計単位でかかります。SIG公式サイトの現在のAdopter価格は1万米ドル前後です(最新は公式サイトで確認してください)。
- スイッチ、ライト、ワイヤレススイッチのBluetooth部分がまったく同じ(同じチップで同じバージョンのスタック)なら、1つの設計にまとめられ、費用も1回で済みます。
私たちの構成にはBluetoothの設計が2つあります。ゲートウェイ内のSilicon Labsのモジュールと、デバイス側のTelinkのチップで、それぞれのメーカーのQDIDを参照します。
無線認証:法律で義務、交渉の余地なし
無線認証は電波の発射を扱うもので、各国の法規で義務づけられています。販売地域ごとに整理すると次のとおりです。
| 地域 | 認証 | 認証済みモジュールを使う場合 |
|---|---|---|
| 中国 | SRRC型号核准 | 多くの場合、完成品でも認証が必要。詳細は認証機関に確認 |
| EU | CE(RED指令) | モジュールの試験レポートを引用でき、完成品で適合宣言を出す |
| 米国 | FCC | モジュールのFCC IDを流用し、完成品を追加で試験する |
ゲートウェイには通常、Wi-FiとBluetoothモジュールの2つの無線があります。認証済みのモジュールを選び、アンテナやRFパラメータには手を入れないようにすれば、RF試験の大半を省けます。私たちのゲートウェイが、Bluetoothの高周波回路を自前で設計せずに既製のSilicon Labsのモジュールを使っている理由のひとつでもあります。
RF以外にも、電子製品には通常、安全規格と電磁両立性(EMC)の認証が必要です。中国のCCCや、CEに含まれるLVDとEMCがその例です。電源アダプタ付きのゲートウェイは、とくに注意してください。
Apple Homeに対応するのに別途認証は必要か
よくある質問です。Apple Homeに対応するには、HomeKit認証も別に必要なのでしょうか。
Matterデバイスなら不要です。Matter認証を通ったデバイスは、そのままApple Homeに追加して操作できます。AppleのMFiプログラムを通す必要はありません。Google Home、Amazon Alexa、Home Assistantも同じで、これこそがMatterの意義です。
パッケージに「Works with Apple Home」のようなバッジを印刷したい場合に限って、Appleの該当プログラムを別途調べる必要があります。
初年度の費用の目安
1社・ゲートウェイ1機種・Adopterとしての Matter認証、という前提での見積もりです(米ドル。為替や見積もりは実際のものに従ってください)。
| 項目 | おおよその費用 | 備考 |
|---|---|---|
| CSA Adopter年会費 | 7,500 | 毎年 |
| Matter認証費用 | 3,000 | 製品ごと |
| Matterラボテスト | 4,000〜7,000 | 約3万〜5万元 |
| Bluetooth SIG宣言費用 | 約10,000 | 設計単位。メーカーのQDIDを参照すれば再テスト不要。ゲートウェイとデバイスで各1件かかる場合も |
| 無線認証 | 地域による | 認証済みモジュールなら大半を省ける |
| デバイス証明書 | 台数単位 | 量産時に継続して発生 |
ゲートウェイのMatter認証とBluetooth認証1件だけで数えると、初年度の固定費はおよそ2万5,000〜3万米ドルです。無線認証とデバイス証明書は含んでいません。2年目以降は、おもにCSAの年会費と新製品の認証費用になります。
中国、欧州、米国で同時に販売する場合は、無線認証と安全規格の分がかなり増えます。
おすすめの進め方
- まず販売地域を決める。必要な無線認証が決まります。
- モジュールを選ぶ時点で証明書を確認する。Bluetoothモジュールの QDID、Wi-FiとBluetoothモジュールのSRRC、CE、FCCの証明書原本を揃え、型番とSDKのバージョンが一致していることを確かめます。
- ハードウェアが固まる前にCSAに加入する。VIDを申請してテスト要件を早めに把握しておきます。試作機が完成してから機能不足に気づく、という事態を避けられます。
- エンジニアリングサンプルの段階でプレテストを行う。プレテストを提供しているラボは多く、本番のテストより安く、問題を早く見つけられます。
- Matterの本テストを依頼する。並行して、量産ラインの証明書書き込みフローを準備します。
- Bluetooth SIGの宣言書を提出する。チップメーカーのQDIDを参照します。
- 無線認証と安全規格は、Matterのテストと並行して進められます。
おわりに
認証は事務手続きのように聞こえますが、実は技術選定に跳ね返ってきます。認証済みモジュールを使うか、メインSoCにセキュアストレージがあるか、スイッチとライトでBluetooth設計をまとめられるか、といった点です。チップを選ぶ段階から認証を織り込んでおけば、あとでお金も時間もかなり節約できます。
本文中の価格は、CSAとBluetooth SIGの公式サイトおよびラボの見積もりレンジに基づいています。変動が早いので、正式にプロジェクトを始める前に、公式サイトとラボの最新の見積もりで確認してください。
Matter認証の準備をしている方、あるいはBluetoothや無線認証のコストと順序を検討している方は、お気軽にどうぞ:linktr.ee/weiyii